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お客様事例

MS&ADシステムズ株式会社様

画像:MS&ADシステムズ株式会社様
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三井住友海上あいおい生命保険株式会社様とグループのシステム会社のMS&ADシステムズ株式会社様は、約20年にわたり使い続けてきた生命保険の基幹システムの構造革新プロジェクトを進めるにあたり、ケンブリッジに支援を依頼されました。肥大化・複雑化したシステムによって生じていた様々な課題を3年半のプロジェクトを通じて解決し、当初の予定通り、2021年1月に新システムのリリースを迎えられています。

このインタビューでは、ケンブリッジの大塚、渡辺とともに、プロジェクトリーダーを務められたMS&ADシステムズ株式会社の新田様、現場のPMO事務局担当を務められた服部様に、プロジェクトを成功に至らしめたポイントについて語っていただきました。

#01”スパゲッティ化”した基幹システムの構造革新と次世代の育成

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MS&ADシステムズ 新田氏/MS&ADシステムズ 服部氏

まず、MS&ADシステムズ株式会社の概要について教えてください。
新田 当社は、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険、三井ダイレクト損害保険、三井住友海上あいおい生命保険、三井住友海上プライマリー生命保険を中核とするMS&ADインシュアランスグループの一員として、グループの保険システム全般(企画・設計・開発・運用)を担っています。

1996年の「金融ビッグバン」で保険業法が改正されたことで規制緩和・自由化・グローバル化が進み、保険業界では合併・再編の波が起こりましたが、1986年に設立した当社も親会社の合併等に伴い、2011年に3つのシステム会社が合併し、現在に至っています。

今回のシステム構造革新プロジェクトの経緯について教えてください。
新田 プロジェクトの対象となったのは、三井住友海上あいおい生命保険の基幹システム(SCRUM)です。SCRUMは、同社が開業した1996年に導入し、大規模な改修を施さずに機能拡張を繰り返し、約20年にわたり使い続けてきました。そのため、システム構造が肥大化・複雑化していました。また、開発の上流工程からメンテナンスに至る大部分をパートナー会社に依存してきたため、システム構造の把握が困難になり、それが高コスト化の一因となっていました。

生保業界では近年、機動的な新商品の投入が競争力のカギとなっていますが、前述した課題がネックとなり、新商品向けのシステム開発に時間とコストがかかっていました。そこで2017年8月、システム構造を見直す検討を開始し、プロジェクトの立ち上げ、運営をケンブリッジにご相談したわけです。

服部 主たる目的は、主要工程の内部化(開発の上流工程の自前化)によるシステムグリップ力の向上、商品開発力の強化(開発期間短縮・開発コスト削減)、メンテナンス性の向上をもたらす基幹システムのリノベーションなどです。また、デジタル戦略を見据えた基盤構築として、オンラインシステムの稼働時間の拡大も急務となっていました。

主要工程の内部化には、「次世代育成」という背景もありました。生命保険は数十年にわたりお客様を支えるもので、その情報を管理する基幹システムも長期にわたり使い続けます。内部化を通して基幹システムの中身を理解した社員を育成することは、当社のシステムを末永く維持していくという意味でも重要なポイントでした。

ケンブリッジ 大塚 基幹システムの構造革新と、内部化による次世代育成。今回のプロジェクトでは、この2つを同時に実現することが求められました。2017年8月に最初のご相談を受けた後、まずは開発計画を作成するため、2018年1月から6月まで半年ほどかけて議論し、全体方針や体制、新システム移行までのスケジュール、工程や進捗、リスク等の管理項目をまとめた全体実行計画書を作成しました。
新田 今回のプロジェクトは期間が長く、投資額も大きい。対象とするシステムの範囲も広く、さらに生命保険会社、当社、複数のパートナー会社など関係者も多岐にわたる。品質低下やプロジェクトの遅延をもたらすリスクが無数にあるため、ケンブリッジと一緒に施策の有効性や実現性を一つひとつ確認しながら、全体計画の精度を高めていきました。
大塚 まずはSCRUMを構成するシステム(販売支援、新契約、保全、保険金、数理、アプリ基盤、基盤運用)ごとにワーキンググループ(WG)を設けて、それぞれ担当するパートナー会社と協力しながら現状のシステム構造や課題を分析しました。
新田 メインシステムとサブシステムの連携、外部システムとの連携など、1つのWGだけでも課題が非常に多いことがわかり、全体像を把握するのも一苦労でした。そのあたりをケンブリッジが上手に整理してくれたおかげで、各WGが抱える本質的な課題や対応策を検討することができました。

#02会社や担当の垣根を越えて本音で議論する

「新しい保険商品に対応するシステム開発期間の短縮・開発コスト削減」という点では、どのように改善効果の見通しを立てましたか?
大塚 ひとくちに生命保険といっても、死亡保険や医療保険、がん保険、年金保険など様々な種類があり、対応するシステムによってボトルネックとなっている箇所も異なります。システムごとに開発を担当するパートナー会社も異なるため、パートナー会社も含めて何度も議論しながら現状の開発工程を分析し、短縮できる箇所や自動化できる箇所を探していきました。
新田 例えば、A社が開発したモジュールをB社が活用しているといったように、1つのシステムでも関係性が複雑で、さらに他のシステムとも重層的に連携していました。そこで、社内の担当者やパートナー会社にヒアリングを行い、保険の種類ごとに異なる開発パターンのモデルを洗い出しました。絡まった糸を解きほぐし、各社の担当工程をすり合わせた上で短縮できる工程を見つけ出す、といった作業です。

抜け漏れがあると手戻りや進捗の遅れにつながるため、時間をかけてクリティカルパスを確認しながらモデルのシミュレーションを繰り返し、改善効果の見通しを立てましたが、ここが一番苦労した点かもしれません。

服部 関係者が多いため、当初はプロジェクトに対する意識や解決したい課題もバラバラで、現場の取りまとめ役としては意思統一やチームビルディングの面で不安を抱えていました。社内外の担当者が関わる場合、各々の利害を考えて発言も守りに入りがちですが、それではプロジェクトの達成も覚束なくなります。相手の気持ちになって考える、協力しあうといった点は私自身も工夫していましたが、ケンブリッジのファシリテーションに助けられた部分も大きいですね。

各WGのセッションではスクライブで議論の見える化がされることによって課題が整理され、全員の意識が揃うようになりました。ケンブリッジもファシリテーターとして、メンバーの反応にも細かく気を配り、バランスよく意見を引き出してくれました。このように、初期段階から会社や担当の垣根を越えて密度の高い議論ができたため、チームとしての一体感が高まり、開発期間の短縮・開発コスト削減につながる効果的な開発モデルが打ち出せました。また、これがあったから、メンバーが主体的に検討を行っていく土壌となり、基本設計や外部・内部設計、各種のテストも乗り越えることができたと感じています。

ケンブリッジ 渡辺 長期にわたる大規模プロジェクトほど、チームビルディングやコミュニケーション・パスが重要になります。今回はプロジェクトの立ち上げ当初から、新田さんや服部さん、各社のキーマンと何度も意見交換し、関係者間の情報共有のあり方などを検討しました。プロジェクト開始後も大塚が中心となり、進捗に合わせてセッションの頻度などを細かく調整していましたね。

#03内部化による次世代の育成

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ケンブリッジ 渡辺/ケンブリッジ 大塚

プロジェクトのもう1つの目的、「内部化」についてはいかがでしょうか。
新田 従来の開発はパートナー会社への依存度が高く、費用も年々増加する傾向にありました。また、依存度が高い分、当社側のシステム開発スキルも低下し、パートナー会社から提案される開発期間や工程、コストなどの妥当性検証も難しくなっていました。そこで、社員のスキルを高めて当社側が主体となって開発に携わる、つまり、システムグリップ力を高め、パートナー会社と対等に議論できる人材を育てることが内部化の目的でした。
服部 今回は、システム開発にかかる工程の大半を自分達で行う「内製化」が目的ではなく、システムの肝となる部分に対象を絞って習得を目指すため、内部化と表現しています。具体的には、上流工程に当たる「外部設計」「総合テスト」を対象とし、システム構造革新プロジェクトで再構築する機能のドキュメント(システム概要、外部設計書等)の作成を通じて必要なスキルを習得することを目指しました。とはいえ、システムグリップ力を高めるといっても抽象的すぎて、何をどこまで習得すれば目標達成と言えるのか、具体的な到達目標や範囲を決めるのが難しかったですね。
大塚 考え方としては、2021年1月のリリース後、システムを正しく運用していく上で習得しておくべきスキルとその範囲を決める、というゴールを設定して議論しました。各自が担当する機能ごとに到達目標を定め、スキルチェック表など定性的な評価基準を設けて、個々人の進捗を管理しながら進めました。
服部 今回は大規模なプロジェクトだけに現行メンバーでは人員が足らず、中途採用者も多数参加していましたが、彼らに高いモチベーションを持って動いてもらえるかどうかが、プロジェクト成功のポイントになると捉えていました。

中途採用者は特性、年齢、経歴も様々で、プロジェクトに対する意識にも当初は温度差がありました。我々もきめ細かいコミュニケーションを心掛け、プロジェクト・オーナーである生命保険会社の方々に今回のプロジェクトや内部化の目的・意義について語ってもらう機会を設けるなど、メンタル面のマネジメントは様々な工夫をしました。

大塚 プロジェクト本部は高田馬場、内部化の拠点は品川にあり、新田さんはじめPMOのメンバーは週1回、品川で各WGとセッションを行い、進捗管理や課題解決をサポートしていました。また、1つのフェーズが終わるたびにサンセット・ミーティングを行い、積み残した課題や次フェーズの進め方などを確認しました。

実は、それ以外でも新田さんはたびたび品川を訪れ、現行メンバーや中途採用者とざっくばらんに話をするなど、現場の方々と積極的にコミュニケーションをとられていました。こうした何気ない心配りが地味に利いていたと思います。

新田 相互理解やコミュニケーション不足ですぐに辞めてしまうのは、当社にとっても中途採用者にとっても一番不幸なこと。せっかく決意して入社してくれた社員に長く勤めてもらうために、やる気や現場の雰囲気を高めるのもリードする我々の重要な役割だと考えていました。各WGのリーダーにも気配りができる人材を配置して、彼らともコミュニケーションをとりながらチームとしての一体感を高めていきました。中途採用者には基幹システムの全体像について説明した上で、「あなたにはシステムの中のこの部分を支えてもらいたい」と語りかけ、納得感や目的意識を持って仕事に臨んでもらえるようにしていました。

#04大規模プロジェクトならではの課題とその対応

大規模プロジェクトを運営していく上で苦労した点、工夫した点は?
服部 PMBOKや当社の過去のプロジェクト実績に則ってプロジェクト管理の観点を網羅した全体実行計画書を作成しましたが、人間がやることなので、実際にその通りに進むとは限りません。やはり、一人ひとりに「自分が主体となってプロジェクトを進めるんだ」という意識を持ってもらうことが大切になると考えていました。そのため、ガバナンスを利かせた進捗管理と同時に、「とにかく話す」ことを強く意識しました。できる限り社内外の様々な人と話をし、誰がどのような考えを持っているのかを把握するなど、誰とでも腹を割って話せる状態を作ろうと動いていました。セッション回数や考えることの数があまりにも多くなり、「脳の糖分が足りない!」と感じることの多かった3年間でした。
新田 大規模プロジェクトは、課題や問題が山積していくほど破綻するリスクが高くなるため、早い段階で潰しておくことが大切になります。リスク管理という意味では、常に最新かつ正確な情報がエスカレーションされるように注意を払っていました。現場の人達が萎縮してしまうと正確な情報が上がってこなくなるため、フラットな人間関係を心掛け、「小さな相談事にも耳を傾け、きちんと対応する」という姿勢を忘れないように、特に注意していました。

また、当社の社員とパートナー会社の間で見解が異なるなどの問題が起こった場合は双方から平等に意見を聞いて解決に当たり、現場の意見を本部長や役員に伝えて改善を図るなど、上下左右の風通しを良くするために動いてしましたね。

大塚 新田さんは「自分が介入する/現場に任せる」、このバランスが絶妙でした。服部さんは、メンバーに「何が課題だと思う?」「どうすればいいと思う?」といった質問をして、各々の主体性をうまく引き出しているなと感じていました。お二人とも、パートナー会社に対しても同様の姿勢で対応されていたので、そのおかげで現場の雰囲気もどんどん良くなっていきましたね。
新田 とはいえ、当然ながらどこかで零れ落ちてしまう情報もあり、時には主観が入りすぎた情報、間違った情報が入ってくることもあります。そうした時、大塚さんはじめケンブリッジの方々が正確な情報を集めて、第三者の視点で問題の本質を示してくれたり、一緒に解決方法を考えてくれたりと、きめ細かくサポートしてくれました。私や服部も、気になることがあれば大塚さんに相談していましたが、本音で話せる相手がすぐ近くにいたのは大きな安心材料でしたね。
服部 同じゴールを目指しながらも、各WGが並行して活動し、取り組む内容も多岐にわたっていたため、どうしても進捗に差が出てしまいます。進捗管理の面では、大塚さんとも相談しながら先々のスケジュールを見極め、都度細かく調整していました。遅れがあれば別のWGにヘルプをお願いしたり、負荷の高い作業を依頼したりすることもあり、その調整について何度も泥臭い話し合いを繰り返しました。

#05プロジェクトを成功に導いた要因は?

全体実行計画書で描いた目標やQCDを達成し、2021年1月のリリースを迎えられたわけですが、成功の要因はどこにあったのでしょうか?
新田 会社やチームの枠を越えて話し合える雰囲気ができ、リスクや課題を先回りして潰せたこと。上下左右の情報共有やコミュニケーションがうまくいったこと。中途採用者も高いモチベーションを維持して取り組んでくれたこと。それらのおかげで、体制やスケジュールも破綻することなく進められたのだと思います。
大塚 当たり前のことばかりかもしれませんが、実は当たり前のことを当たり前に行うことが一番難しい。特に今回は、計画段階からPMOを中心とした上下左右のコミュニケーション・パスをしっかりと作り込み、新田さんや服部さんがそれらを正しく機能させたことが大きかったと思います。
服部 情報共有などを意識し過ぎると定例会や会議が形骸化する、つまり、過去の情報を扱う「報告・連絡」を行う機会も増えてしまいます。今回のプロジェクトでは「相談」を中心とした未来志向のセッションとすることを意識し、QCDや課題に対するWGの考えを引き出すことで、本質的な議論ができました。
大塚 ケンブリッジとしても、そのあたりは細かい仕掛けを施していました。PMOやWGメンバーなどが集まる全体定例会では、「単なる進捗報告ではなく、現状の課題や先々のリスクなど、PMOや他WGに相談したいことを話してください」とお願いしていました。また、各WGのメンバーとPMOのみの少人数セッションも用意し、個別の進捗や心配事など踏み込んだ内容について相談できる場も設けていました。地味な仕掛けですが、現場の本音を吸い上げるという意味では効果的に機能したと思います。
渡辺 各工程の完了判定をきちんとやられていたことも、プロジェクト成功の要因だったと思います。よくあるのが、未完了の工程を「条件付き完了」と判定して課題や問題をどんどん先送りした結果、進捗の遅れや品質低下、プロジェクトの破綻につながるケースです。それが今回はほとんど起こらなかったのは、次工程まで見据えた完了判定の基準があり、工程完了までの進捗管理も有効に機能していたからだと思います。
新田 例えば、パートナー会社から出されるWBSは作業項目中心になりがちで、当社で行う承認プロセスなどが考慮されていません。大規模プロジェクトほど承認プロセスの階層や数が多いため、そこが考慮されていなければ正確なスケジュールも組めません。WBSの作成段階でそのあたりをきちんと検討していたことも、進捗管理に役立ちました。

#06誰もが満足した気持ちのいいプロジェクト

最後に、今回のプロジェクトを振り返っての感想を。
服部 「次世代の育成」「基幹システムの継承」は、ここ数年、新田さんはじめ部長レベルの方々が力を入れて取り組んでいたテーマです。実は、私自身もそのあたりに課題意識を持っていたことから、今回のプロジェクトの話を聞いた時、「会社の未来につながる取り組みなら、ぜひ若手を中心にやらせてください」と少々強引にお願いしました。若手に任せるとなれば不安も大きかったはずですが、“信じて任せてくれた”ことが個人的にはとても嬉しく、その想いに全力で応えたいと思っていました。その想いは、「WGを信じて話す」というファシリテーション型マネジメントという形でプロジェクトメンバーにも感じてもらえたのではないかと思います。
新田 次代への積み残しとなった課題もなく、全体実行計画書で「やる」と決めたことを全てやり遂げることができた、とても気持ちのいいプロジェクトでした。私も様々なプロジェクトを経験してきましたが、関係者の誰もがこれほどの満足感を得られたプロジェクトはなかったと思います。服部をはじめ個々のメンバーもしっかりと成長し、今では中途採用者もすっかり当社に馴染み、担当部署でも自信を持って仕事に取り組んでくれています。私個人としては、若手や中途採用者の育成・定着に携わり、彼らが成長していく姿を目の当たりにできたことが何よりも嬉しかったですね。
渡辺 新田さんや服部さんをはじめプロジェクトのリーダークラスの方々が熱い想いを持って取り組まれていたので、その熱が若手の方々やパートナー会社、そしてケンブリッジのメンバーにも伝わり、プロジェクトの成功につながったのだと思います。ケンブリッジのメンバーも、このプロジェクトを通して成長することができたと感じており、本当に感謝しています。
大塚 プロジェクトの成功も嬉しかったのですが、それ以上に、新田さんや服部さんと仕事上の付き合いを越えて本音で話し合える関係になれたことが、私個人として得られた一番の成果だと感じています。
画像:MS&ADシステムズ株式会社様

――本日は貴重なお話、ありがとうございました。

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