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お客様事例

三井製糖株式会社様(全社レベルの業務改善と基幹システム刷新)

画像:三井製糖株式会社様(全社レベルの業務改善と基幹システム刷新)
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三井製糖株式会社様は、全社レベルでの業務改善と同時に基幹システム刷新を行うといった非常に難易度の高いプロジェクト(プロジェクト名:MACS)を成功裏に終えられました。

MACSプロジェクトを振り返り、プロジェクトマネージャを務められた上席執行役員 業務本部長 林氏と、プロジェクトリーダーを務められた情報システム部長 齊藤氏にお話を伺いました。ケンブリッジからは、代表取締役社長 兼 当プロジェクトのクライアント・パートナーである鈴木と、プロジェクトマネージャの柴田、チームリーダーの泉山、深沢が参加しました。

対談では、当時の状況を振り返りながら、時間・コスト・人的リソースといった制約条件の中、プロジェクトを成功させるためにどのようなことを意識して進めたのか、また成功要因は何かといったお話を伺いました。

(対談収録日 2012年9月5日)

#01後々にも役に立った他社へのシステム導入事例ヒアリング

これまでの会社の変遷、合併の歴史
柴田 まずは、三井製糖の会社概要をご紹介いただけますか。
弊社は2005年に3社(新三井製糖、台糖、ケイ・エス)合併してできた精製糖メーカーです。さらに歴史を遡ると、新三井製糖は新名糖(2001年合併、現在の千葉工場)、芝浦精糖(1970年合併)、大阪製糖(1970年合併)、横浜精糖(三井製糖の前身)と合併した経緯があり、6社のDNAが存在しております。
事業内容は砂糖事業が9割で、残りは食品素材事業、不動産事業を行っています。砂糖事業は国内での需要は減少しておりますが、グローバルで見ると成長産業です。アジアの人口が爆発的に増えており、特に中国、インドネシアの需要が増加傾向にあります。
中期経営計画にも掲げておりますが、「内を耕し、外を攻める」ことを目標にしており、国内の砂糖販売トップシェアの維持、および海外販売へのチャレンジを行ってまいります。
プロジェクト立上げに向けた情報収集と事前準備活動
柴田 プロジェクト発足に至るまでの背景、経緯について教えていただけますか。
齊藤 2005年の合併から5年経った段階で、各所から営業系基幹システムが2つあることの問題点が指摘されはじめました。また、その一つである新営業システムにおいて、売上基準の変更をはじめとしたIFRS(国際会計基準)、消費税変更などへの対応が非常に難しく、かなり改修コストがかかってしまうこともあり、プロジェクト発足となりました。
柴田 齊藤さんは、プロジェクトを立ち上げるにあたり、社内外での情報収集をかなりされていたと伺っています。どなたからどのような観点で情報収集をされたのかお話いただけますか。
齊藤 現行システムの問題点については、これまでの運用の中で各所から声があがっていたため、だいたい把握できていました。加えて、既に発足していた別プロジェクト(※工場側の業務改善プロジェクト)でも、現行システムに関する課題ヒアリングを実施していたため、その成果も流用させてもらいました。

また、過去に基幹システムを刷新された企業7社に対して、どのようにプロジェクトを進めたのか、ERPを導入した結果どうだったのか、ユーザー側で考慮すべき点などを中心にヒアリングさせていただきました。各社から貴重な意見をいただくことができました

柴田 特に参考になった意見はどのようなものでしたか。
齊藤 例えば、システムの導入目的を明確にすることです。先方の担当者から「システムは何のために入れるのですか」と聞かれて、はっとしました。そのときは、システムの老朽化のためとしか意識できていませんでした。基幹システム刷新はあくまで手段であり、その先の達成したい目的を明確にすることが大事だと認識しました。

また、実務をこなしながら、プロジェクトを担当することはかなり大変であるため、専任メンバーをおくか、もしくは現行業務の負荷を軽減するために派遣社員を用意した方がよいというアドバイスも参考になりました。
ベンダーからも情報収集を行いましたが、ベンダーは良いことしか言わないため、実際に利用しているユーザーから生の声は大変参考になります。パッケージの持つ癖やベンダーの対応など、悪い部分についてもはっきり聞くことができました。
今後、システムを導入される企業は、ぜひユーザー回りをすることお勧めします。ただし、他社へのヒアリングの難しいところは、どこの会社が新しくシステムを導入したか解らないことですね。

BPRと外部コンサルタントの活用を決めた理由
柴田 外部のコンサルタントを活用しようと考えられた背景を教えていただけますか。
齊藤 私がプロジェクトリーダーを担当するにあたり、外部コンサルタントの採用を必須条件とさせて頂きました。工場出身で基幹システム導入の経験がないため、外部の支援が必要と考えていました。外部支援なしにプロジェクトを推進するのは、泳げない人に泳げと言っているようなものですからね。
柴田 コンペの結果ケンブリッジを選んだ理由をお話いただけますか。
齊藤 5社に声をおかけし、コンペを行いました。社長自らコンペに参加したのはケンブリッジさんだけでした。BPRを含めた提案内容、かつ社長の熱意がよかったのだと思います。
鈴木 プレゼン後に「ケンブリッジに決めたが、PMの柴田さんが若くて頼りなさそうなのが難点。社長がしっかりと参加してくれ」と言われたことも今では笑い話です。
齊藤 柴田さんについては、コンサルタントの選定を行った際、PM候補に説明頂きましたが、柴田さんが一番若く、経験薄に見えたため、あれで当社の曲者相手に太刀打ちできるかとの意見が挙がりました。しかし、現在ではその若さが武器なったと誰もが認識するところとなっています。

#02全社レベルでの業務棚卸と課題抽出で現場の信頼を得る

製糖業界の特殊性と合併の歴史により複雑化した業務
柴田 今回、プロジェクトスタート前に1ヶ月間ほど準備期間があり、業務、システムに関する多くの資料を提供いただきました。大変ありがたかったのですが、逆に情報量が多すぎて我々も目を通すのでいっぱいいっぱいだったのを覚えています。

また、提供いただいた資料をベースに、各部所のキーマンの方に業務内容に関する事前ヒアリングをさせていただきました。我々としては、製糖業界の独自業務や資料からは読み取れない現行業務への理解が深まり、非常に有効でした。三井製糖側としては、いかがでしたか。

齊藤 事前に当社の業務内容を理解いただき、プロジェクト開始時にはトップギアで対応頂けるとの認識で有難いと思っておりました。また問題の整理能力、時間内にきっちり収めるという手法が確立されていたため、ケンブリッジさんを信頼することができました。
柴田 当初、ヒアリングする対象部署を絞る予定でしたが、結果的にほとんどの部署を対象に現行業務ヒアリングをさせていただきました。また、事業所によって、同じ業務であっても運用方法が異なるとのことでしたので、東京以外の事業所(関西、九州)と各工場(千葉、神戸、長田、岡山、福岡)へも訪問させていただきました。ヒアリングの中で、様々な課題が浮き彫りになりましたが、実施してみていかがでしたか。
齊藤 情報システム部としては、東京、関西、九州の違いはシステム的には把握していましたが、実際の運用を理解することができ、有意義でした。また、旧システム開発時に東部だけの意見で作ったところ、関西で問題が多発した経緯も踏まえることができました。

また、一通り話を聞いた中でシステム化する範囲を決定したため、ヒアリングもせずにシステム化を諦められたとの苦情はありませんでした。現場との合意形成には重要だったと認識しています。

鈴木 プロジェクトを推進するうえで、工場を回らないと難しかったと思います。我々としても本社と工場の違いを肌で感じることができましたし、セッションで実際に顔をあわせているかいないかは大きいと思います。
聖域なき業務改善
柴田 社内の事前調査の中では、システムによっては問題点が少なく、また主管部署が継続使用を望んでいるため、変更しないことが有力だったと認識しています。最終的には、全領域に亘るシステム刷新となったわけですが、どう感じられていましたか。
齊藤 当時、ある部門ではEXCELを使っておりましたので、システム化する余地が大きいと感じていました。しかし、プロジェクトを進めてみるとシステム化せず、EXCELで業務を実施している事が問題ではないことが分かりました。その部署が各事業所のデータを収集しているのですが、事業所間の整合性を担保することの重要性を確認している部署がないため、そこに時間がかかっていると判明しました。

これらはシステムではなく組織的な問題ですが、この機会に分かってよかったと思います。聖域なき業務改善とは、ERPの導入を目標としたため、必然的に全領域が対象となったため生まれた言葉です。

柴田 我々が現行業務ヒアリングの中で感じたのは、各部のみなさんがシステムの機能不足やシステム化されていない面を人手によってカバーされていて、工数をかけて業務品質を担保し運用されているということでした。自部署内では最適化されているけれども、全社レベルで見たときに非効率の状態になっていました。
齊藤 その通りです。当社は売上高が高い事業をとっても、本部が分かれており、そこを行き交うデータの整合性を大所高所から考えることが難しく、こればかりはシステムではカバーできない問題でした。
柴田 一部の業務統合など一足飛びには行けない課題については、現場の反対も強く一部の改善にとどまるものもございました。この件については、どのような印象をお持ちでしたか。
齊藤 一部の業務統合は、ERPパッケージ導入の効果を最も発揮する部分であるため、本プロジェクトとしても課題としました。しかし、プロジェクト推進するためには、各担当者の絶対的な協力が必要なため、無理に業務改革や組織改革を進めて、感情的にこじれることを避けることも大切でした。

当時は、組織を変えるハードルが高く、課題に挙げただけで十分だったと思います。現在であれば、現場の意識も変わってきており、集約化することも可能だと感じています。

組織の壁を越えた議論とファシリテーションへの目覚め
鈴木 この当時、「今までは社内で組織の壁を超えて議論することがなかったが、ケンブリッジのセッションに参加することで、そういうことが起こり始めた」と林さんがおっしゃっていて、嬉しく感じたことを記憶しています。
今までは部門を超えて論議するという事が少なく、いい経験、きっかけになったと思います。現在では、部門横断で打ち合わせすることも増えました。
柴田 プロジェクト活動からは少し脱線しますが、ベンダーからのRFP回答待ちの期間を利用して、中堅社員向けにファシリテーション・トレーニングを2回開催させていただきました。会議のファシリテーションを中心とした内容だったのですが、参加者の方も積極的に参加いただき、大変盛り上がりました。
齊藤 当社は会議の効率的な進め方という講習開催は経験がないため、大変参考になったと思います。ケンブリッジさんの影響をうけて、フリップチャートを購入して利用している部門もあります。

今後、プロジェクトに参加した若手を中心に、何かあれば集まってセッションを開催する習慣がつくことを切に願っています。特に、コアメンバーの一部は、ファシリテーション・スキルを習得し、プロジェクトでもおおいに活躍しています。

#03明確な評価基準を設定し、選定の透明性を確保

当初想定とは異なる結果となったベンダー選定・評価
柴田 今回、ベンダー5社にRFPを配布し、提案プレゼンとデモを実施していただきました。プロジェクトのコアメンバーの皆さんには、各社のプレゼン・デモを受けて、評価していただきました。各社の提案プレゼン、デモはいかがでしたか。
齊藤 ケンブリッジさんには、私が知らないようなシステムで且つ当社にフィットしたシステムのご提示を期待していたのですが、そこは期待外れで、私が選定したベンダー、パッケージをRFPの候補とすることになりました。

当初、プレゼン・デモのように相手企業に負担をかけることに多少抵抗がありましたが、大勢の社員に参加頂きシステムやベンダー企業の社風の一旦も垣間見ることができ、結果的に良かったと思います。また情報システム部やプロジェクトの一部の者がシステム選定したとの批判は一切なく、選定の透明性は十分確保されたと思います。

ここで最も大変だったのは選に漏れた4社にお断りすることでした。あっさり引き下がる会社はありませんでしたが、選定基準がしっかりしていたので納得してもらうことができました。

柴田 事前に決めていた評価項目、基準に従って、提案内容を評価したところO社が総合で1位の結果になりました。ベンダー選定セッションにて、皆さんにもどのベンダーがよいか回答いただきましたが、ほぼ全員が同社を選ばれていました。

齊藤さんは、事前調査をされていたこともあり、当初別のベンダーを推していたと思いますが、今回の結果をどう感じていましたか。

齊藤 今回のように明確な評価項目・基準を設定していなければ、このような選定結果にならなかったと思います。同社営業に話を聞いたところ、製糖業界用のテンプレートがあるとのことで一気に期待が高まったことも事実です。

また、選定対象システムの利用ユーザーへもヒアリングに行き、印象がよかったことも選定する上での後押しにもなったような気がします。

#04極力カスタマイズを抑える「その機能本当に必要ですか?」

怒涛のFit&Gapセッション
柴田 このフェーズからO社さんのSEがプロジェクトに加わりました。プロジェクトの進め方をこちらの想定にあわせてくれるなど、非常に柔軟でフットワークも軽いという印象でした。
齊藤 O社SEは当社の業界を経験しただけあって、飲み込みが早いとの印象でした。砂糖・食材領域に関してはパッケージとしては最善の選択であったとの印象です。
柴田 今フェーズより、領域毎にチーム分かれてFitGapセッションを進めることになりました。今、振り返ると各チームは、現場のキーマンの方をアサインいただいており、有意義な議論ができていたと思います。

特に、砂糖・食材チームは関西から有力な担当者に毎週参加いただき、東西の業務差異を意識しながら進めることができました。メンバー選定にあたり、意識したことは何かございましたか。

齊藤 コアメンバーはこちらから特に指名しておらず、各部の上長に推薦してもらいました。全社的にも重要な位置づけのプロジェクトであったため、適切な人材を選出してもらえたと思います。

過去、旧システムの立ち上げの失敗を経験しており、そうならないようにとモチベーションも高かったと思います。関西の担当者がほぼ毎週、関西から上京してもらったことは、プロジェクトの成功要因の一つと思っております。

鈴木 「過去の失敗を繰り返さない」というキーワードがプロジェクト推進上でも力になっていましたね。
齊藤 若手が多い部署は、過去の失敗をあまり知らないため、危機感は薄い面があったと思います。しかし、実際に経験者がチームにいたことは大きかったと思います。
柴田 FitGapセッションでは、以下のような基本方針のもと、パッケージの標準機能を確認しながら、カスタマイズするかどうか真剣に議論しました。 

①原則、可能な限りパッケージに合わせる方向で、要件を調整する。
②パッケージに機能がない場合、代替機能、運用で対応できないか検討する。場合によっては、業務フローを見直す。
③投資対効果を考慮し、要件を詳細化する。

O社さんの主要SEからも「その機能本当に必要ですか?他社ではこのように使ってもらっています」など、極力カスタマイズを抑えるような発言をしていただきました。

柴田 砂糖・食材チームは検討時間が足りず、夜セッションも開催することになりました。原則、18-20時でしたが、時には21時までかかったりすることもありましたね。齊藤さんからお弁当やおにぎり、お菓子の差し入れがあり、大変ありがたかったです。
齊藤 夜食については、気は心です。夜セッション開催から情報システム部メンバーの過労が加速したのも事実で反省点の一つですが、他に取るべき手立ても無かったのも事実です。
震災の影響とリリース延期の危機
柴田 3月11日の震災の影響で工場が被災し、一時出荷停止になりました。コアメンバーが震災対応でプロジェクト活動ができず、リリース延期も危ぶまれました。しかし、情報システム部とSEで進められる範囲でプロジェクトを継続することにしました。あの当時はどのような考えをお持ちだったのでしょうか。
齊藤 工場の被災、原発の問題などもありましたが、会社は機能しており、プロジェクトしては経営から中断命令が発令されない限り突き進む覚悟で、ケンブリッジさん、SEにもその旨伝えた覚えがあります。
リリースを延期するという議論は特にありませんでした。

#05リリースに向けて必要なリソースを見積り、予算化しておく

導入計画検討とフェーズ分け
柴田 震災の影響でセッションが開催できなかったため、砂糖・食材領域の基本設計を1ヶ月延長することになりました。ただし、リリース日は変更しないこととしたため、後続タスクの受入テスト、並行稼動にそのしわ寄せがきました。
齊藤 一ヶ月足らなかったのは厳しかったです。特に移行と教育、受入テストが重なり多忙を極めたと記憶しております。ケンブリッジさんに増員をお願いしたのと、当社として業務委託者を採用しましたが、要員不足は否めず、よく乗り切ったと思います。何か一つでも歯車が狂っていたら失敗していた可能性は高かったと思います。ケンブリッジさんの頑張りも評価に値します。
柴田 2012年4月リリースに向けて、変動リスクの抽出とその対応策を検討しました。今後、ユーザー主体のタスク(受入テスト、教育、並行稼動)が増えてくるにあたり、リソースが確保できるのかがポイントでした。

並行稼動では新旧システムに受注入力しなければならないため、単純に作業が倍になります。特に経理部は決算作業期間はプロジェクト作業ができないことが想定されていましたので、どうすれば乗り切れるのか議論しました。齊藤さんからは各部署へ追加要員の検討を打診していただきました。

齊藤 各部署への追加要員の検討について、前述した他社ヒアリングでのアドバイスを実践し、派遣社員や業務委託者の確保に必要な予算を経費申請していたのが功を奏しました。
柴田 最終的には、1次リリースの負荷やリスクを分散するため、現状システム化しておらず、当面手計算で継続可能な業務を1.5次リリースとすることで意思決定しました。
齊藤 1.5次リリースに分割して負荷分散する提案は、当社ではなくO社からあったと記憶しております。三井製糖、O社ともに開発、検証に時間が取れないとのことで、ある意味妥当な提案でしたので受け入れました。システム化を急がないものは1.5次リリースに分散したのは、1次リリースの業務負荷を考慮すると、それが軽減できたとのことで、正しい選択でした。

#06現場の十分な巻き込みとフォロー体制の構築

やはり苦労したデータ移行
柴田 過去合併時にマスター統合で難儀したトラウマもあり、皆さんはデータ移行に対する意識は非常に高かったと思います。設計の早い段階からテーブルレイアウトを入手し、現行システムとのデータ・マッピング、コード体系の整理、データ・クレンジングに着手しはじめました。データ移行に関してどのような考えをお持ちでしたか。
齊藤 財経、人事・給与領域については、パッケージのためデータ定義の開示が早く、比較的順調に対応できたと思います。財経は業務委託に採用した者がDBに強かったのも良かった点でした。

砂糖・食材のデータ移行は会社として過去のトラウマはあったものの、もう少し楽に出来ると思っていました。ケンブリッジさんが移行作業にまで携わってもらったことは大変感謝しております。ケンブリッジ根岸さんの頑張りがなければデータ移行は厳しかったと思います。

柴田 移行ツール開発を外部の協力会社に依頼していましたが進捗、品質が思わしくないことが判明し、ケンブリッジメンバーも支援に入り、リカバリすることになりました。

我々の反省としては、業務負荷の高い一部の情報システム課員に任せきりになり詳細な進捗まで把握できていませんでした。PMOとして、しっかりとフォローすべきでした。今振り返るとどのような体制で臨めばよかったとお考えですか。

齊藤 ツールの作成を依頼する場合は品質の担保が必要と痛感しました。ユーザー側としては、移行を専門職にしているベンダーや移行ツールを専門にしている業者がいれば、そこを提案して頂けると有難いと思います。最初から予算に組み込めればベストです。最大にパワーが必要なのはやはり移行でした。
柴田 遅延していた移行ツール開発も目処がたち、いよいよデータ移行にとりかかることになりました。しかし、マスタ構成を理解し、それにあわせたマスタデータを作成するのにかなり苦労しました。

作成当初は、マスタ間の整合性がなかなかとれずに何回もツールでチェックしては、修正を繰り返す日々が続きました。苦労した原因は何だったと思われますか。

齊藤 最大の問題点は要員不足だったと思います。マスタに関してはそこそこ専門的知識が必要とされますが、パッケージ、旧システムに精通した担当者を立てることは至難の業です。また、作成したデータは現場に最終確認してもらう必要がありますが、新システムについて精通した担当者は最初からいるわけではないので、ここを如何に乗り切るかがポイントになると思います。
短すぎた?ユーザー受入テスト
柴田 砂糖・食材は、並行稼動を2ヶ月とり、そこで品質を担保することとしたため、受入テストを1ヶ月で実施することにしました。かなりタイトスケジュールなのは承知の上でしたが、その期間で教育と現場説明会を並行して実施していたこともあり、今考えると無理があったように思います。齊藤さんは振り返ってどうでしたか。
齊藤 無理があったと思います。私も教育で事業所周りをしながら、ホテルにメールとシステムが使えるPCを持ち込んで各事業書からの質問への答えを記載し続けた記憶があります。

この当時目先の案件を処理するだけにエネルギーを使い、全体のことを考えることができない状況でした。また他の情報システム部主要メンバーも移行作業と教育、EDIのテストと殺人的に多忙で、今考えても良く乗り切ったと思います。

柴田 齊藤さんには特に購買関係、債務連携などの受入テストを先行して実施していただき、不具合を早めに明らかにしていただきました。品質担保する上では、我々もかなり助かりました。受入テストをやってみた感想をお聞かせください。
齊藤 債務連携はシステム間の処理で十分な説明もなく、O社でもどちらのチームが担当するか明確になっていませんでした。リスクが高いと感じていたため、力を入れました。特に設計書や説明書が無いため、本来なら課員に命じて作らせるところですが、皆多忙で自分でテストして自分で作るしかなかったというのが実情です。

購買を使う事業所は本社から離れた工場が多いため、ここでトラブルが多発するとプロジェクトの進捗に関わるとの判断もありました。結果的に早期に問題点を出すことができ、トラブル対応の平準化ができたと思っています。

集合教育、現場説明会での個別サポート
柴田 現場のキーマンの方には、O社講師によるシステム操作説明を受けていただき、その担当者が現場説明会の講師を担当していただく形をとりました。当初、十分に説明できるか不安の声もありましたが、本社からもフォローに入ってもらい、全拠点で説明会を開催できました。

齊藤さんも全拠点実際にまわられたと思いますが、ご感想はいかがでしたか。

齊藤 現場の熱意や意識の差は当然ありましたが、このシステムを使う事が全社的に求められておりましたので、あまり心配はしていませんでした。私が全事業所を回って一番質問を受けたのは債務連携で、ここは受入テストや操作メモを作っておいて良かったと思いました。
深沢 私は齊藤さんと一緒に現場説明会に回らせていただきました。現場説明会では特にワークフローが使いにくいといった意見があがりましたが、齊藤さんからシステム化することの意味を説明いただき、現場の方にも納得していただけました。
齊藤 最後は責任をとる覚悟はできていましたので、現場担当者を責めるのではなく、何かあれば自分に言ってきてほしいと伝えました。経営層からの後押しもあり、大々的な反対はありませんでした。
十分な並行稼動で本番に備える
柴田 並行稼動当初は、受注入力が思うように追いつかずこのままで大丈夫かとういう不安がありました。理由としては、マスタ設定不備により入力できない、そもそも操作方法が理解できていない、現行業務が忙しく時間がとれないなどでした。
齊藤 その通りです。赤川さんや根岸さん、関西に一週間詰めてもらった泉山さんの活躍があってのことと感謝しております。またSEの方々も適宜本社に詰めてもらいバックアップ体制としては比較的良かったと思います。
柴田 並行稼動が進むにつれ、今後は現場から様々なリクエストがあがってくるようになりました。単純な操作方法の質問、使い勝手の改善要望、考慮不足による仕様変更、認識相違による仕様変更などです。

本来は、受入テストで事前に潰せるものもあったと思いますが、短縮したツケがまわってきている状態でした。

齊藤 並行稼働で質問や課題が出るのは覚悟しておりました。O社さんには、迅速に不具合対応いただいたり、現場に密着した対応をいただいたりと大変助かりました。
柴田 現場の皆さんはやり出すと慣れるのも早く受注入力に関しては、ほぼ並行して進められるようになりました。安心したのも束の間、月次締めという次の高い壁が待ち構えていました。

並行入力することになれることを優先していたため、出荷倉庫の指定がまちがっていたり、在庫があっていないなどの課題が発覚しました。また、月次締め作業手順を十分に理解できていないこともあり、月次締め作業でも大変苦労しました。

齊藤 その通りでした。在庫を管理する部門の確認作業を改善するセッションを開催して、経理の確認手法を入れるなど対策を講じました。来季の問題ですが、来年の3月の締めを伸ばすため、対策が必要です。
明確な判定項目、基準を設定し、リリース判定を乗り切る
柴田 並行稼動で日々あがってくる障害、QA、仕様変更等の対応に追われ、EDIなどの外部連携テストの確認が後手にまわっていました。その結果、蓋をあけてみると仕様のヌケモレや認識相違などが多発し、リリースできる状態にありませんでした。

三井製糖とO社さんがそこだけに注力した結果、リリース判定直前でなんとか目処がたちました。今考えるとかなり綱渡り状態でしたが、どのように考えられていましたか。

齊藤 ここはご指摘の通り薄氷を踏む思いでした。EDI不具合が多かったものの1つ1つ確実に潰した結果、致命的にはいたらずに済みました。
柴田 出荷関係伝票の印刷、製本が本番稼動までに間に合わないという事態も発生しました。試作版の版下で刷った出荷関係伝票で当面(1ヶ月程度)運用回避することで乗り切ることができましたが、かなりヒヤヒヤものでした。
齊藤 出荷関係伝票の製本を委託した会社がO社さんの関連会社であったためO社さんに何とか交渉して対応いただいたため、間に合いました。ここは関係会社全て認識が一致しており、出荷伝票が刷り上がらないためにリリースが遅れるなど洒落になりません。
柴田 一部、リリース判定項目はYellowでしたが、残項目の対応目処がたっていることから、無事にリリースが承認されました。経営層としては、どのような点を気にされていましたか。
複数回に分けて、ステコミにきちんと報告していたことがよかったと思います。最悪の事態を想定して、コンティンジェンシープランを検討できていたことも大きかった。前回の合併時は3カ月間決算できませんでしたが、今回は多少の混乱はあったとしても決算は可能であると考えていました。

#07大きな混乱もなく本番稼動

切替のリスクが低いスライド方式を採用
柴田 当初、残高移行することを想定していましたが、検討の結果、切替のリスクが低い並行稼動継続プラン(スライド方式)を採用することに決定しました。切替のリスクが少ない分、並行稼動にて在庫を完全一致させる必要がありました。しかし、十分に対応できず、結局調整入力が必要になり、残高をあわせるのに大変苦労しました。
齊藤 残高は合わせましたが、期末の締めが問題となりました。
柴田 本番稼動後は、どのような状況でしたか。
齊藤 並行稼動を2ヶ月間実施していたこともあり、本番稼動後の受注~出荷業務は大きな混乱もなく、運用できていたと思います。

しかし、受注出荷業務が停止するような致命的な障害は発生しなかったものの、日々障害が発生して、落ち着くまである程度の期間を要しました。

泉山 初回月次締めでは、イレギュラーケース、仕訳の確認を重点的に行うため、締め日を2日延長しました。締め日当日は夜遅くまでの対応をして一部確認残項目があったものの概ねの業務は締めることができました。
齊藤 最初の締めは緊張したようです。そもそも締めを情報システム部で実施する必要はないのですが、全社に亘る業務のため情報システム部で締めています。当初BIの活用については、情報システム部の負荷を考え、1次リリースの安定稼動後に対応する方針としていました。

但し、特定製品の原価計算に必要なデータについては優先度を上げて対応する方針としました。営業からは旧システムのBI程度データ表示要望が強く、情報システム部の若手が急遽対応して4月に旧システム程度の表示が可能なように間に合わせました。

#08さらなる業務改善を目指す

1.5次、2次リリース、そしてさらなる業務改善へ
泉山 1.5次リリースでは、経営層からの期待が高い原糖管理機能、業務負荷低減効果が見込める原価計算、全社員が利用する就労といった機能がリリースされる予定です。過去を振り返り、1.5次リリースとした判断はいかがだったでしょうか。
齊藤 負荷分散の見地からは、1.5次リリースは正しかったと思います。
泉山 2次リリースでは、主に計画系がリリースされます。開発期間が短いながらも2012年度中のリリースを目指しています。
齊藤 当初、システムの全体像が見える前に計画系をシステム化の候補に入れましたが、当初担当者が想定したデータがシステムに揃わず、また原価計算のデータが使用できると思っていたところ、原価計算データは計画系で使用するにはメッシュが粗く、利用に限界があるなど想定より揃わないデータを補う必要が生じましたが、EXCELから取り込む仕組みを導入するなど計画系をシステムに入れるとの方針を変えることなく利用部門主体で進めています。
泉山 MACSシステム導入により、基盤ができあがりました。それにより様々な別プロジェクト(部門BPR、業務集約)が始動しています。
齊藤 まずは、新システムを使いこなし、どのくらいの効果が出ているのか効果測定を実施する予定です。現在、社内的に機運も高まっていますので、さらなる業務改善を目指したいと思います。

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